かれが本当に辞めるきっかけになったのは、そのハウスパーティでドラッグびたりの3日間のあと、「完全に目的がない[無意味な]状態で生きることが、いかに深刻につらいのか」に気づいたことでした。じぶんでもなにがつらいのか、よくわかってなかったのですね。
ここがBSJ論のとても重要なポイントのひとつです。エリックはどうみても、とても「おいしい」仕事に就いています。ところが、それがかれの心を徐々にむしばんでいったのです。このような経験は、かれだけにかぎったものではありません。『ブルシット・ジョブ』にあげられたほとんどの証言が、多かれ少なかれ「傷ついていること」の記録です。
とはいえ、やはりそれはふつう「おいしい」とされる仕事なわけです。じぶんでもそれはよくわかっている。でもなにかそれになじむことができない、というか、とても居心地が悪い。
そこでかれらは葛藤します。友だちからも家族からも、そんな悩みは「ぜいたくだ」といわれる。それでまた悩む。人が悩まないことをうじうじ考えてるじぶんはどこかおかしいんじゃないか、要するに「甘えてる」んじゃないだろうか。